TechShop

イベント

【イベントレポート】不思議!味わいがかわる料理道具たち~「燕」の最高の料理道具で、最高の体験を~

イベントレポート

2018.9.15 (土)

9月中旬の連休の頭となる15日(土曜日)の午後、TechShop Tokyoにて、新潟県燕市主催の「TSUBAME HACK!」が開催されました。これは燕市が2016年から開催しているアイデアソン・ハッカソンのシリーズ・イベントで、“多種多様な視点を取り入れた、新しいアイデアやイノベーションを創出するための魅力的なコミュニティーづくり”を目的としたもの。参加した人たちが協力して、新しいアイデアやモノづくりを行い、最後にその成果を競うという共創型のイベントです。今回は「不思議!味わいがかわる料理道具たち~『燕』の最高の料理道具で、最高の体験を~」というタイトルからもわかるように、燕市で作られた料理道具がテーマとなりました。

ちなみにTechShop Tokyoと燕市の付き合いは深く、今回の「TSUBAME HACK!」だけでなくワークショップなど、過去に燕市に関係するイベントがTechShopで数多く開催されてきました。「モノづくりを志向する人たちが集まるTechShopさんと一緒にイベントを行うことで、新しい出会いが期待できます」と燕市の担当者である産業振興部商工振興課ブランド推進係長の山﨑聡子さん。一方、TechShop Japan代表取締役である有坂社長も「燕市さんのモノづくりの現場を見に行ったことがあるのですけれど、素直にすごいなと感心しました。こういう技術にTechShop Tokyoの会員さんが触れると満足度や想像力がアップするのではないかなと。そんな感じですから、うちと燕市は親和性が高いと思います」とラブコールを返します。

今回のイベントは「聴く」「試す」「語らう」という3部構成です。まず、テーマとなる燕市の料理道具のことを知るために、プロによる話を「聴く」ところからスタート。続いて、実際にその料理道具の実力を「試す」。そして最後に、参加者の皆様が「語らう」ことでアイデアを練り上げます。イベントのスタートは13時。募集30名の席は前日までにしっかりと埋まったとか。参加された方々の顔ぶれを見ると、30~40代の男性が中心で、女性は4~5人といったところでしょうか。TechShop Tokyoの会員の方も参加されているようです。

 

最初にご挨拶で登場したのは燕市の産業振興部長の小澤元樹さん。「燕から、ハウスウェアをいろいろと持ってきました。触っていただいて、その良さを体感し、良いアイデアをいただければ嬉しいですね」。

続いて登場したのは、イベント全体の進行役兼盛り上げ役のハブチンさん。ハッカソンのファシリテーターを数多く務めた司会ぶりは見事なもの。親しみやすい語り口で和やかな雰囲気を生み出します。

最初にご挨拶されたのは燕市の産業振興部長の小澤元樹さんでした

「みなさんの自己紹介を兼ねて目の前の名札に、自分がこだわっている、もしくは興味を持っている道具を書き入れ、~芸人と続けてください。その後に自分のニックネームを。そして同じテーブルの人に1分でこだわりの理由を語ってください」とハブチンさん。自身は、“コーヒー焙煎芸人ハブチン”とか。6つの席に4~5人ずつ座った参加者が、同席した人たちに自分の思いを説明します。覗いてみれば、“キーボードマウス芸人~”“ゆで卵スライサー芸人~”“ストレッチボール芸人~”“バーミキュラ芸人~”などなど個性豊かな道具名が名刺を飾っています。

イベント全体の進行役のハブチンさんの親しみやすい語り口で
会場の雰囲気はぐっと柔らかなものに

 

プロによる話で燕の料理道具のポテンシャルの高さを理解する

自己紹介を経て緊張が解けたところで、本プログラムである「聴く」が始まります。『プロに聞く。不思議な味わいがかわる料理道具たち』というテーマによって集められたのは、料理道具を企画・デザインする人と作る人、それを使って料理をする人、さらにはそれを売る人、といったプロ4名。トークセッション部分のモデレーター/司会の角勝さんから投げかけられた質問は、「味わいがかわる料理道具とは、具体的には何ですか?」というものでした。


「聴く」のパネルディスカッションには料理道具のプロ4名が登場しました

「私たちで開発した金属のタンブラーですね。内面を100分の数ミクロン単位で作り込むことができるのは金属だけ」と燕商工会議所の高野雅哉さん。燕市の零細研磨事業者をネットワーク化した共同受注システム「磨き屋シンジケート」のまとめ役です。その言葉に「僕はアマゾンランキングで1位から100位までのタンブラーを買って試してみました。やはり燕のタンブラーは泡立ちが全然違いますね!」と合いの手を打ったのが、合羽橋の料理道具屋「飯田屋」の6代目店主である飯田結太さんでした。

燕商工会議所の高野雅哉さん。
燕市のモノづくりネットワークである「磨き屋シンジケート」のまとめ役です

合羽橋の料理道具屋の6代目店主である飯田結太さん。
「自身が仕入れを行う道具は必ず使ってからにする」というポリシーをお持ちです

「味わいがかわる道具と言えばカトラリーでしょう。私の店では料理にあわせてカトラリーを使い分けています。最高1本3万円のナイフに2万円のフォーク、4万円のワイングラスという場合もあります」とは燕三条イタリアンBitのオーナーシェフであり燕市PR大使の秋山武士さん。燕三条イタリアンBitは銀座にも店があり、そこではノーベル賞晩餐会で使われるカトラリーセットも用意してあるとか。

燕三条イタリアンBitのオーナーシェフであり燕市PR大使の秋山武士さん

そんな燕三条イタリアンBitでも使うカトラリーをデザイン・開発するのがクリエイティブ・ディレクターの堅田佳一さんです。燕市の包丁メーカー「藤次郎」にも関係の深い人物です。「包丁の切れ味が悪いと、断面の細胞がギザギザになって、食材の中身のジュースの出口がたくさんになってしまい、美味しさが逃げてしまいます。切れ味は重要です。ですが、包丁は磨けば何でもよくなるんですね。でも、切れ味が悪くならない包丁は存在しません。だから、切れ味のよい状態をどれだけ維持できるのかが勝負になります。そういうメンテナンス性も重要になります」と堅田さん。また、個人的には燕市で作られるラバーゼ・シリーズに注目しているとか。マイナスの美学を哲学にした機能美が素晴らしいと言います。

 

「僕は自分のことをオロシニスト飯田と名乗るほど、おろし金が大好きなんです。大根おろしでも、フワフワからジャキジャキまで5種類ほどのおろし具合があるんですよ」と飯田さん。オロシ具合によって味も変化するというのです。繊維を細かくカットしておろすと歯触りがフワフワになり、さらに空気に触れる面積が増えるため揮発性の辛味成分が飛んで甘くなるとか。一方、粗く繊維を残すとシャキシャキになり辛み成分が揮発せずに残るので、当然味わいも辛くなるというのです。

そうして4人それぞれの、「味わいのかわる料理道具」が紹介された後はフリートークに突入。鍋やフライパンなどの材料の厚みが味に与える影響や、美味しいご飯の炊き方などが話題となって、トークセッションは大いに盛り上がり、1時間はあっという間に終わってしまいました。

クリエイティブ・ディレクターの堅田佳一さん。
包丁の藤次郎のスタッフだったこともある人物です

 

料理道具による切れ味の違いは、誰が見てもハッキリとわかるもの

料理道具と美味しさの関係は話を聞くだけでもわかった気持ちになりましたが、その次のプログラグである「試す」には、驚かされました。まさに一目瞭然だったのです。用意されたのは2本の包丁とローストビーフ。包丁は、燕市役所にあった普通のモノと、燕市の誇る逸品「藤次郎DPコバルト合金鋼割入(口金付き)240mm」です。普通の包丁で1㎏もの大きな肉の塊を切る様子は、“ギコギコ”と音がするノコギリを使っているかのよう。もちろん肉の断面はギザギザになっています。一方、藤次郎の包丁は、切れるスピードからして違います。“スッ、スッ”と柔らかいバターを切るかのよう。肉は薄く、もちろん断面もツルツル。


用意された1㎏のローストビーフを2本の包丁で試し切り。切り分けた断面の違いは一目瞭然

続いては、先ほど“オロシニスト”と名乗った飯田さんが2つのおろし金を持ってきました。ひとつは“シャキシャキ”に、もうひとつは“フワフワ”に大根がおろせるというものです。目の前で作った大根おろしは、やはり一目で違いがわかります。さらに飯田さんはしょうがを、チーズを削る料理道具でおろし始めました。おろし金と比べると、しょうがの削られた断面がやはりまったく違います。おろし金だと繊維が残りますが、チーズ削りではツルツルの断面に。話を聞いてわかったような~という気分だったものが、実演を見て確信に変わりました。“あ、料理道具で味わいはかわるんだ!”と。

用意された複数のおろし道具で、ダイコンや生姜をすりおろすと、その違いがハッキリと出ました

 

個性豊かな面白プレゼンが続出!

休憩をはさんで行われたのが、本プログラムの締めとなる「語らう」です。「道具の魅力が伝わるデモ体験」をテーマに、「もしも皆さんのチームがPR部署だったら、どのようにPRするのかを考える」というプログラムです。もちろん道具は、燕市で作られた料理道具です。テーブルごとにチームに分かれて、道具を選び出し、アイデアとプレゼン方法をまとめます。

 

最初は道具選びから。燕から持ち込まれた料理道具は、包丁をはじめ、金属のドンブリ、バターナイフや揚げ物すくいなど10種ほど。それらからひとつを選び出します。そして、チームごとに、一人ずつアイデアを出して、メンバーとブレストを重ねます。メンバー全員のアイデアを聞いた後に、どのアイデアを使うかを決めて、さらに内容と発表の仕方を煮詰めます。アイデアを生み出し、まとめる時間は、わずか1時間半でした。そしてプレゼン本番です。与えられた時間は3分。審査員は、先ほどパネルディスカッションに登場した料理道具のプロたちです。


全員でアイデアをメモに書きだしてテーブルごとのメンバーで煮詰めてゆきます

参加者全員がチームになって行われたプレゼン大会は、非常に個性豊かなものでした。最初のチームがPRする道具は「揚げ物すくい」。なんとプレゼンは寸劇です。ひとりがナレーター、他メンバーがパントマイム家族(母親、息子たち)を演じて、いかに燕の「揚げ物すくい」が優れているかを3分でアピールしました。コミカルな演出でありながら、「揚げ物が簡単」というだけでなく、「洗うのも楽」という提案もあって、審査員も絶賛です。


チームのメンバーが家族になってナレーションをバックにパントマイムの寸劇でプレゼン

また、黒い「おろし金」を商品の優秀さだけでなく、見た目の良さに注目し、カフェなどの壁に貼り付けるという展示方法を提案。さらにアイフォンの置台&スピーカーの音声拡大にも利用するという大胆なアイデアも。これには“オロシニスト”の飯田さんは、「最高です。玄関と部屋とトイレと廊下に4つ買っていきたいですね」と破顔一笑。


なんとおろし金を壁の飾りやスマートフォンのスピーカーボックスに使うという斬新な提案

さらに、なんとわずかな時間のうちにパワーポイントでプレゼン資料を作成するチームも。モニターを使ってのプレゼンを行いました。提案も「良い包丁は、切れ味だけでなく、切るときの音も違う」という驚きのアイデア。そして“トントントン”という音を使って広告費の安いラジオCMを展開するというPR方法まで提案したのです。

わずかな時間でパワーポイントの資料を使ってプレゼンを実施したチームに会場全体がびっくり

 

限られた時間の中、個性豊かなアイデアを生み出し、まとめた参加者のチーム力には驚くべきものがありました。そしてイベントの終了後には、懇親会が開かれ、参加者の3分の2ほどが参加。和やかな雰囲気の中、燕市のタンブラーの実際のビールの味わいや藤次郎の包丁で切られた料理の味わいを確かめていました。

 

燕市の金属加工技術は世界的にも認められており、カトラリーといった市販品だけでなく、アイフォンのパーツやスマートフォンのELモニター、自動車産業などの精密な金属部品の生産には欠かせない存在となっています。燕市は遠い新潟の自治体ではありますが、そこにあるモノづくりへの情熱は、TechShop Tokyoが秘める情熱と同じ。そんな共感が感じられるイベントでした。


イベント終了後に同じ会場で懇親会を開催。
燕市のタンブラーが用意され、みなさんでビールの飲み比べなどが行われていました

 

レポート:鈴木ケンイチ
フリーランスライター AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 クルマを中心にしつつも、環境関係など幅広い執筆活動を行う。