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【イベントレポート】FUJITSU presents 古典芸能に親しむ夕べ「TechShop meets 能」~人間国宝がTechShop Tokyoにやって来る!~

イベントレポート

2018.8.10 (金)

「ここはどちらかと言うとサブカルチャー的なスペースですから、能という由緒正しい伝統芸能の世界の方を迎えるというのは、本当に緊張しますね」というTechShop Japan代表取締役である有坂社長の挨拶からイベントは始まりました。

今回のトークセッション&ワークショップの講師としてお迎えしたのは能楽師である大倉源次郎先生と中村邦生先生のお二方です。大倉源次郎先生は、能楽小鼓方大倉流十六世宗家であり、昨年59歳という若さで人間国宝(重要無形文化財の各個認定保持者)に選ばれた人物。中村先生は能楽シテ方喜多流の方で、能では主役であるシテ方を担当します。会場に集まった約40名の参加者からも、挨拶した有坂社長と同様に緊張した雰囲気が漂います。ちなみに、なぜ能なのか? といえば、2年後に迫った東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催が理由の根底にあります。2020年に向けて、スポーツだけでなく日本の文化も世界へ発信していこうという機運が高まっている中、TechShop Japanの親会社であり、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のゴールドパートナーでもある富士通は、その文化普及活動の一環として、日本の伝統芸能である能をテーマとした今回のコラボレーション・イベントをTechShopを通じて実施することになったのです。

最新の工作機械が並ぶTechShop に和服姿の能楽師の先生お二人を迎える

大倉源次郎先生
能楽小鼓方大倉流十六世宗家 人間国宝(重要無形文化財の各個認定保持者)
中村邦生先生
能楽シテ方喜多流

私たちの生活に根付いている能の文化

最新鋭のデジタル工作機械が並ぶ前に和服を着た先生が並ぶという眺めは、誰の目にも相当な違和感をもって映ったことでしょう。“人間国宝”がすぐそこにいるという緊張感も漂います。しかし、いざ前半のトークセッションが始まってみれば、大倉先生の語り口は、とても優しい雰囲気。しかも、織田信長や徳川家康の名前を挙げながら説明される能の歴史の話は、ウイットに富んでおり、とても分かりやすいものでした。役行者にはじまり、足利義満に庇護された観阿弥・世阿弥、そして能を愛した織田信長のエピソード、そして徳川家康が能を国の公式な音楽(式楽)に定めたことなどが語られました。

そこで気づいたのは、能がいかに、私たち日本人の生活に浸透しているかということです。能楽では、演じる主人公を“シテ”と呼び、その助演者が“ツレ”で、相手役を“ワキ”と呼びます。相棒を“ツレ”、主人公以外の演者を“脇役”と呼ぶのは、ここからきていたのです。また、ひな祭りの歌にある「五人囃子の笛太鼓~」とは能楽を示す歌詞。今回の参加者の3分の1が実際に能を見たことがないと言うように、現代人である私たちにとって能が身近なものだと考える人はあまりいないはず。しかし、説明を聞いてみれば、意外と親しみやすいものだと感じられたのです。


ハスキーな声の大倉先生(右)と中村先生(左)

伝統を守り伝えてきた人間ならではの仕事観

続いては、TechShopの有坂社長が聞き役となって大倉先生と中村先生への質問タイムです。外国の方の能に対する反応や、最新の音楽との関係など、幅広い質問が飛び交います。時間オーバー気味に盛り上がったトークセッションですが、特に印象に残ったのは、最後の「超一流の仕事人として大切にしていることは?」という問い。それに対して、大倉先生は「教えられたことも大事ですが、それを稽古して、身につけることが大切だと思っています」。中村先生は「継続と一瞬を大事に。そのときにすべてをかけるようにしています」というお答え。伝統を守り、後世に伝えるべく活動するお二人ならではの仕事観と言えるでしょう。


非常に盛り上がったトークセッションでは、さまざまな質問が飛び交った

数百年前に作られ、今なお現役の本物の小鼓を演奏する

続いては普段はデスクが並ぶクラスルームに移動して、小鼓の体験ワークショップです。なんと、数百年前に作られ、今なお現役で使われている本物の和楽器の小鼓を参加者が演奏するという内容です。


実際に能楽に使われている小鼓が今回のワークショップのために用意された
普段はバラバラになっており、演奏するたびに組み立てるという 

小鼓は、桜の木でできた胴を、馬の皮でできた表皮と裏皮で挟むという構造です。表と裏の皮を固定するのは麻のヒモで、演奏するたびに組みなおします。古い胴に描かれた美しい蒔絵も注目ポイント。もちろん手描きですから、ひとつひとつ趣の異なる絵が描かれます。そんな小鼓を演奏するのですが、もちろん(?)、参加者の誰もが初めての経験。小鼓を鳴らすための構えも知りません。大倉先生が直接、小鼓の持ち方から指導してくださいます。左手で麻のヒモを握りこみ、右肩にのせて構え。叩くのは右手です。また、小鼓は数が限られていましたので、他の人たちは、“持ったつもり”で構えて口と手拍子で音を鳴らす “エア小鼓”で練習です。


小鼓の持ち方から構え方まで、大倉先生が自ら手ほどきする
小鼓の数が限られているため、他の参加者は、“エア小鼓”で演奏の練習

小鼓は打ち方によって4種類の音がします。高い甲(かん)という音と柔らかな乙(おつ)という音を基本に、それを強弱で打ち分けることで合計4種。声にしてみれば「チ」「タ」「プ」「ポ」となります。「チ」が甲(かん)の小さな音。「タ」が甲(かん)の大きな音。「プ」は乙(おつ)の小さな。「ポ」は乙(おつ)の大きな音です。さらに、タイミングを合わせるために「ホウ」「イヤー」などと掛け声をかけます。

さまざまな独自のリズムパターンが存在しますが、今回は4種類のリズムパターンを教えてもらい、それらを組み合わせて曲の一節をみんなで演奏することに。「イヤー」「ホウ」「ポン(叩く音)」「ホウ」「ポン(叩く音)」「ウン」「ポン(叩く音)」「ポン(叩く音)」といった拍子で小鼓を打ち、見学者は声とエア小鼓で合わせます。1回、わずか1分たらずの演奏でも、参加者全員に一体感が得られ、みんなの顔がみるみる笑顔になってゆきます。そして最後に「小鼓にお礼を」という大倉先生の言葉にあわせて、みんなで小鼓に向かって一礼し演奏は終了。会場全体に満足感が漂います。


4種類のリズムパターンを教えてもらい、大倉先生のリードで、実際に演奏する

本物の能楽師による演奏の迫力に参加者は身じろぎひとつできないほど

そして、最後のとっておきが大倉先生と中村先生による演奏です。普段は4人の奏者と演者、そして地謡と呼ばれる合唱隊による編成が基本ですが、今日に限っては、小鼓と謡い手、それぞれ一人ずつという特別な組み合わせ。これは「一調(いっちょう)」と呼ばれるもの。


2人きりとは思えないほどの迫力の演奏。参加者は真剣そのものの様子で聞き入る

会場は無機質な会議室のようなところ。しかし、始まってしまえば、まるで能楽堂に来たかのような雰囲気に一転。声は朗々としており、掛け声は迫力に満ち、とても澄んだ小鼓の音が響き渡ります。お二人は、先ほどの優しい雰囲気はすっかり消え失せ、眼差しには力がみなぎり、凛とした空気が漂います。約40名の参加者は演奏に圧倒されて身動きもできないほどです。

曲の題材は、源平合戦の屋島の戦いのさわりの部分。3分弱の短い演奏でしたが、終わった瞬間は、あちらこちらの口から「ほ~」というため息が。また、「すごいもの見ちゃった」と言い合うように、友人と顔を見合わせる人も。これでイベントは終了となりましたが、参加者はなかなか会場を後にしません。大倉先生と一緒に写真を撮ったり、質問を投げかけたりと、まさに興奮冷めやらぬといった雰囲気でした。

今回、富士通の特別協賛によって実現した「TechShop meet 能」は、東京・赤坂という都会のど真ん中にある会員制デジタルDIY工房 “TechShop Tokyo”に、現役の能楽師を招いたもの。最新鋭のデジタル技術を駆使する場で、普段なかなか聞くことのできない生々しいお話を至近距離で聞き、400年物の小鼓を実際に手にとって演奏するイベントとなりました。伝統と最先端が交錯する、まさにオープンイノベーション時代を象徴する新たな出会いの場になったのではないでしょうか。


現代の能を代表する一人である大倉先生の演奏を生で、しかもほんの数mという至近距離で経験する

 

レポート:鈴木ケンイチ
フリーランスライター AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 クルマを中心にしつつも、環境関係など幅広い執筆活動を行う。